mizore galleryに作品をご出品いただいている立体アーティストにインタビューをする企画。今回はガラスを使って昆虫のモチーフを制作する「芝﨑由華」さんにお話を伺いました。
芝﨑由華プロフィール
1996年生まれ
2019年3月神戸芸術工科大学芸術工学部アート・クラフト学科 卒業
2021年3月神戸芸術工科大学大学院芸術工学研究科総合アート&デザイン専攻科 修了
■アーティストを目指すきっかけはなんでしたか?
昔からもの作りが好きで、幼少期には家具の廃材などを使ってオブジェのようなものを作ったり、物を作る人や美術に関わる人に自然と憧れるようになりました。大学では学校の特性からガラスや陶芸、金工など何でも挑戦できる環境だったので、一通り経験した後に、ガラスの素材感に惹かれ、ガラスを使った制作を本格的に始めました。
将来どうするかと考えた時、自分が社会に出てOLになって働くようなイメージが全く湧かず、客観的にも主観的にも絶対に向いていないなと思いました。ものを作っている未来の方が楽しく、絶対に向いていると感じていました。それに、一旦もの作りを辞めてしまったら、やりたいと思ってもなかなか戻れないのではないかという心配もありました。自然な流れに身を任せ、今できることをやり続けることが大事だと思い、本格的に作家を志しました。

ガラスと虫の魅力、その共通点を研究
■今の作風に至るきっかけはなんですか?
実は虫のモチーフの着想に関してはガラスの素材が先行しています。大学時代に色々な素材を触ってからガラスにたどり着き、「ガラスで何を作ろう」と考えたときに思いついたのが虫でした。ガラスと虫について自分がいいと思うところはどこなのか、共通点はあるのか、などを日々考えています。
昔から生き物が好きで、ミミズが地面に出てきたところをアリが少しずつ自分の巣に持ち帰る様子や、カマキリが捕食するシーンなどが興味深くてじーっと見てしまうような子供でした。いざモチーフを考えた時、そういうシーンがパッと思い浮び、作り始めたらすごく面白くて「作り足りない」「もっと作りたい」という気持ちになって、今もずっと虫のモチーフを作り続けています。
害虫だけど造形が魅力的だったり、小さいけれど頑張って生きている命の輝きや、表面的のキラキラと輝いている様子が、磨くとピカピカ光るガラスに近い物があるのではないかと思っています。今後もガラスと虫の共通する点に関して表現や自己研究を続けたいです。
■ガラスをいいなと思ったきっかけはなんですか?
ガラスは表現の幅がとても広く、ガラスにしかできない表現があるところにも惹かれました。ガラスと聞くと、窓や食器などを想像すると思うのですが、実はたくさん技法があって、私がやっている「キャスティング」というガラスの鋳造技法だと、窯の中から曇った状態で出てきて、そこから磨いてマットな質感やツルツルの質感を表現していきます。技術的にできないこともありますが、部分的にコントロールして、ガラスらしく見せることもできれば、ガラスに見えないようにすることもできます。
■なぜ架空の虫を作っているのですか?
実際に存在する虫を作るということも表現のひとつだと思うのですが、自分の作品として作るものは、自分の内面を投影させた物を作りたいという想いがあり、生写しの模刻のようなものではなく、自分が好きなフォルムと組み合わせることで生み出される形などを大切にして制作しています。
■制作で1番テンションが上がる瞬間や、アドレナリンが出る瞬間はいつですか?
一番テンションが上がるのは、窯から作品が出てくる瞬間です。キャストガラスなので、型の中にガラスを入れて溶かすのですが、型を割って作品を取り出すまで成功か失敗かがわかりません。焼き窯の中で焼き終わって、ゆっくり冷めるのを待ち、木槌で型を割って水で石膏を洗い流す時に、作品がうまくいっているのを見ると作っていてよかったと心から思
アドレナリンが出る瞬間は、研磨しているときです。集中して自分の欲しいラインが出るまで削っていくので、ランニングハイならぬ“研磨ハイ”のような状態になって、集中しているとあっという間に時間が過ぎてしまいます。
制作中の芝崎さん
黄金虫の輝きと女性らしいフォルムへのこだわり
■自分の作品の「特にこだわり!」というポイントはどこですか?
架空の虫を作ることと、フォルムです。私は黄金虫が昆虫の中で1番可愛いと思っているので、黄金虫のような作品をよく作っています。女性らしく丸みを帯びたフォルムは、自分にしか出せないオリジナリティだと思います。
色に関しては、私は虫のキラキラしているところに惹かれます。ガラスを磨くことで黄金虫のメタリック感を出してみたり、絵付や塗装、箔を貼ってみたりして、どうすればより良いキラキラ感が出せるのかを試行錯誤しています。
■立体作品の魅力はなんだと思いますか?また、立体作家として大変だと感じることがあれば教えてください。
立体作品の魅力は360度見れることと、質量感だと思います。平面作品も魅力的だと思いますが、私は展示を見にいくのも立体作品の方が多いです。物質としてそこに“ある”ので存在感が大きいのも魅力です。
表面積が多い分、色々な表現ができます。例えば私は、作品の裏側にも造形や加工を施すようにしています。ハエの目の後ろの毛並みや、黄金虫のお腹の部分など、あまり見えないようなところも細部まで作り込みます。ガラス作品は小さくてもずっしりとしていて、重さが感じられるところも素敵な点です。
立体作家として大変だと思うことは設備に関してです。自分の持っている設備が、制作できる作品に直接影響してきます。キャスティングでいうと、自分の持っている窯の大きさが、自分が作れる作品の大きさの限界値になってくるので、自分が本当にやりたいことができる設備を整えることが大変です。
また、作品が出来上がったとしても買い手にとってはとっつきにくかったり、買っても置く場所がないという方も多いので、難しいところです。
飾り方によって見え方が変化するガラス作品
■自分の作品はどこに飾られたいですか?
家に馴染むところに置いて欲しいです。特に、身近に感じるところや、パッと視界に入るところに置いていただけるとすごく嬉しいです。窓際など光の当たるところに置いていただくと、時間帯によって光の角度の変化や、蛍光灯と太陽光などで見え方が全然違ったりします。特に絵付けしているものは、光にかざすと印象が違って見えるので、そういった変化も楽しんで欲しいです。

■作家としての今後の目標はなんですか?
ずっと作り続けることを目標にしています。続けていくためにどう動けばいいか、どのような環境に身を置けばいいかを考えながら、流れに身を任せて、その時の自分のフィーリングや状況なども合わせて決めていけたらと思っています。
最終的には自分の工房を持ちたいと思っています。通っていた大学では、陶芸や金工など違う技法の人たちと道具や機材をシェアしたりもしていたので、そういうさまざまなジャンルの作家や仲間とギャラリーを併設した工房を立ち上げたいです。一緒に頑張れる仲間がいるとクオリティが上がりますし、より良い未来に繋がると考えています。