伝統工芸である彫金の魅力と新しい表現への挑戦。アーティスト「古賀真弥」インタビュー


mizore galleryに作品をご出品いただいている立体アーティストにインタビューをする企画。今回は金属や樹脂などを用いて作品を制作する「古賀 真弥」さんにお話を伺いました。

 

古賀 真弥プロフィール

古賀 真弥

1988年 福岡県生まれ。
2014年 東京藝術大学大学院美術研究科工芸専攻修了。
2015年 いりや画廊(東京)にて個展開催。
2016年「彫金*戦功」(日本橋三越本店 / 東京)、
2017、2018年 「AKKA-工芸とアートの金沢オークション」(石川県政記念 しいのき迎賓館)
2019年「壁11m2の彫刻展」(いりや画廊 / 東京)
2017、2019、2021年「KOGEI Art Fair Kanazawa」(YOD Galleryブース)などグループ展やアートフェアに多数参加。
2013年 東京藝術大学安宅賞など受賞多数。
2019年 東京都足立区の新築マンションに作品設置。

 

福岡から上京、東京藝術大学へ

 

■アーティストを目指すきっかけはなんですか?

 

大学時代に出会った先輩や後輩、先生方から得た刺激は大きいと思います。

大学進学前にデッサンなどは学んでいましたが、私が入った工芸科のことについて言えば、実際に素材を扱う技術は何もできない状態で入り、制作について朧げなイメージしかない中で、先輩や先生方の作品を見たり実際に話を伺って、「こういうことができるんだな」と具体的に知ることができたのは1つのきっかけなのではないかと思います。

 

藝大に進むきっかけも、高校の時に出会った先輩が藝大の絵画科油画専攻を目指していた(のちに合格し進学)ことで初めて「東京藝術大学」の存在を認識したことでした。人との出会いに大きく刺激や影響を受けていますね。

 

そういえば、実家に帰省したときに中学校の卒業アルバムを見て、そこに「将来の夢:アーティストになる」と書かれているのを発見しました。当時のことが記憶になく、おそらく書くことが無かったため苦し紛れに書いたのだと思うので、全然意識はしていなかったのですが、その頃から表現者になりたい、人と違ったことがやりたいという気持ちがどこかにあったのかなと思います。

 

学生時代の作品




■なぜ工芸の道に進んだのですか?

 

高校は「推薦入試が実技試験と面接のみで楽そうだったから」という今考えると酷く安直で失礼な理由で、普通科の芸術コースに進学しました。もともと絵を描いたり、もの作りは好きだったのですが、そこにいた先輩たちの絵が、自分の想像より遥かにレベルが高く感じ、当時の低い物差しで測った結果、逃げるように「進むべき道は絵じゃないな」と勝手に悟りました。その高校の専攻分けで「絵画」「彫刻」「デザイン」「工芸」がある中で、「みんなと一緒は嫌だな」とまたしても酷く安直な理由で工芸を選びました。

 

工芸コースでは染色を学んでいたのですが、そこでは「ろうけつ染め」という、蝋を溶かして絵を描きながら布を染めることで、版画のように何層も色を重ねていく技法を学んでいました。色を染めていく手順を組み立てたり、一度染めたら後戻りできない感覚が楽しくて「染色に限らず工芸のことをもっと知りたい」と思うようになりました。

選んだ最初のきっかけや理由は積極的ではありませんでしたが、次第にのめり込んでいき、今後も続けていくと考えた時、「やるなら徹底的に学べるところでやりたい」との思いから、本気で藝大の工芸科を目指すようになりました。それまで全てが中途半端だった自分にとって簡単なことは一つもありませんでしたが、人生で初めてと言っても良いほど必死に自分と向き合うようになりました。



■そこからなぜ彫金に進んだのですか?

 

藝大の工芸科に入ったら、1年生のうちは共通の課題をこなしていき、2年生の夏までに様々な工芸の技法を学んで自分の道を絞っていくのですが、その中でも手を動かす感覚や、工程を組み立てる“作業感”が自分の性に合っていたのと、先輩や先生の作品を見て「表現の幅が広そうだな」と思って彫金を選びました。

 

学生時代の作品

 


伝統工芸である彫金ならではの色や素材への挑戦 

 

■今の作風に至るきっかけは?

 

自然物を作品のモチーフにすることが多いのですが、その中でも「魅力的」「表現できそう」と思った瞬間や表情、ディテールを切り口にすることが多いです。

 自然には、自分の意識するよりもはるかに長い歴史が流れていて、壮大なエネルギーを持っていると感じるので、それに想いを馳せながら制作するうちに徐々に今の形になっていったと思います。

 

■彫金と樹脂の組み合わせは珍しいと思うのですが、どのようにして作り上げられたのですか?

 

昔から、水や自然の表情を表現するために、透明な要素が欲しいなと思っていました。今でこそレジン(樹脂)を使った制作方法などはYouTubeなどの動画サイトにたくさん出回っていたりしますが、その頃は情報も少なかったので試行錯誤しながら制作を進めていきました。

伝統工芸として彫金を学んだ身としては、金属以外の素材と組み合わせて作品を作ることは邪道なのではないかと葛藤することもあるのですが、視点を変えれば、他にやっている人が少なくオリジナリティを追求できるという点では良いことなのではないかとも思っています。何より自分の作品に必要な要素を優先するため、さまざまな表現手段の選択肢の中の一つに彫金という技術があると今は考えています。

これからも金属で制作することを大切にしながら、異素材でも良いと感じたものは積極的に取り入れて自身の表現を研究していけたらと思っています。

 

■作品の色彩についてのこだわりはありますか?

 

彫金などの金属工芸の領域ではよく使われる方法で、金属の自然の錆を利用した色彩の中でどこまで表現の幅を広げていくかということにこだわっていたのですが、さらに表現の幅を広げていくため、今はそこまで自然の色にはこだわりすぎないよう、暗闇で光るものや、角度によって色が変わるものなどいろいろな着色料も試しています。着色料を使わない工芸的な色彩表現も大事にしつつ、作品に合わせた表現ができるよう様々な挑戦をおこなっているところです。

 

できないことができるようになる瞬間がやりがい

 

■制作の中でテンションが上がる瞬間はありますか?

 

正直に言うとそんなにないですが、強いて言うなら着色をしたり、パーツを組み立てる中で、自分が想像や計画していたものと良い意味で違ったものが出来上がった時に「これはこれでいいかも」と思う瞬間がテンションが上がります。

あとは、難しくてできなかった技法が上手くなってきた瞬間は、テンションが上がります。特に学生の頃は難しい技法をひたすら練習していくうちに、頭と体が繋がったような気がして感覚を掴む瞬間があるのですが、そういった瞬間は「楽しい!」と感じていました。

 

 

■作品制作の中で特にこだわりの部分はどこですか?

 

見えないところもしっかり作るということはこだわっています。作品のパーツとパーツを組み合わせる金具や、組み立てるためのネジなど、鑑賞者には絶対に見えない位置にあるものもオリジナルで作っています。例えば自分の作品が未来に残っていたとして、朽ちて分解されたり、全然知らない人に内部を見られた時に恥ずかしくないように、細部まで手を抜かずにいたいなと思っています。

 

 

■立体作品の魅力はなんだと思いますか?

 

360度どこから見ても楽しめるという点は魅力的だと思います。見どころを360度作ることができるので、面白い分、手を抜けなかったり、難しいところでもあります。

彫金は「金属の表面を飾る」という要素もあるので、立体作品でありながらも繊細な魅力もあって両方楽しめるのも面白いですね。

 


過去展示風景(グループ展)

 

 

■立体作家として特に大変なことはなんですか?

 

大変なところは梱包です。作品に合わせて箱のサイズを変えたり、箱の中で動かないように固定したりする方法を考えなくてはいけないのは結構大変ですが、それも楽しんでやっています。

ただしっかり固めればいいという訳でもなく、専門家ではない人でも簡単に取り出せるように工夫しなければいけなかったり、難しいことばかりで日々勉強ですが、それが魅力でもあります。

 

作品梱包の様子

 

 

■作家としての今後の目標はなんですか?

 

できないことができるようになるのが好きなので、素材や技法についてどんどん知りたいですし、挑戦したいです。

アイディアはあっても形にできていない作品がまだあるので、そういったものを作れるようになりたいです。例えば、小さなパーツを組み上げて大きな作品を作るなど、大学の修了制作の時にやりたくても当時の知識と技術ではやりきれなかったことがたくさんあるので、それができるようになるのが一つの目標です。

 

 

 



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